野生鳥獣から農作物を守るために
野生鳥獣から農作物を守るために
獣はすぐそこに
この冬、庭先のミカンに、写真1のような被害がみられませんでしたか?鳥に食われたと思っていたら大間違いです。
これは、夜な夜な庭に紛れ込んできた、ハクビシンの仕業です。
近年、各地で野生鳥獣による農作物への被害が頻繁に報告されるようになりました。
昨年は、イノシシが吉見町に出たとか、シカが東松山市に現れたとかの騒ぎもありました。
イノシシのせいでイモが作れなくなった、アライグマに収穫間際のトウモロコシやスイカをやられたというような話は、管内いたるところで耳にします。さらには、雪で倒壊したハウスにやってきて、中のイチゴを食べたうえ、貯め糞までしていったタヌキの話、イノシシに踏み荒らされて収穫がほとんどできなかった稲、シカに芽を食われてしまった枝物など、数え上げればきりがありません。
いったいどうしてこんなに獣たちが増えてしまったのでしょう。
写真1 被害を受けたミカン
豊富な食べ物安全な隠れ家
人里には豊かな食料がたくさんあります。獣たちは、人目を忍んで、そうした食料を手に入れることを覚えました。
農作物の残渣、とり残した家庭果樹、食べても誰にも怒られないこうした食べ物でいつしか餌付けされ、獣たちは次第に人里近くに居つくようになりました。
しかし彼らはどうやって人目を忍んでいるのでしょう。
そのひとつが遊休農地の雑草の中です。草の高さが1メートルもあれば、イノシシは姿をまったく見られることなく移動できます。U字溝の中を行き来しているアライグマもいました。
また最近増えてきた空き家も格好の住みかとなっています。天井裏にはハクビシン、壁の隙間にアライグマ、床下にはタヌキといった具合です。人があまり立ち入らない神社や、放置された竹藪も彼らに住みかを提供しています。
ハクビシンやアライグマは10センチメートル四方の隙間があれば、難なく通りぬけますので、人が住む屋敷の天井裏にも容易に入り込めます。
知らず知らずのうちに天井裏にハクビシンが住み着いて、糞尿で天井にシミができ、やがては抜け落ちたなどという被害もまれではなくなりました。
豊富な食べ物が確保され、安全な隠れ家が提供されれば、否応なしに繁殖力は高まります。
捕っても獲っても、被害がなくならないのはこのためです。
獣たちにエサ場を与えないこと、そして住みかを提供しないこと、この2つの対策を地域ぐるみで行うことが今、求められています。
写真2 神社の柱に刻まれたアライグマの爪痕
農作物を守るために
そのうえで、農作物を野生鳥獣から守る有効な手段のひとつが電気柵の導入です。
ここでは野生鳥獣の行動様式を踏まえて埼玉県農林総合研究センターが開発した電気柵「楽落くん」の特徴と使用上の注意点を解説します。
なお、この電気柵はJA埼玉中央で取り扱っておりますので、お問い合わせください。
楽落くんのしくみ
電圧ユニットで通電線(+)に電圧をかけます。一方で地面にアース(-)を打ち込みます。獣が通電線に触れた瞬間、獣の体を通ってプラスの通電線からマイナスの地面に電流が流れます。これがいわゆる感電です。
この原理は通常の電気柵となんら変わりません。楽落くんの違いは、ネット資材で障壁を作ったことです。
タヌキやイノシシはネットの裾から潜ろうとします。裾をしっかり地面に埋めるなり、ピンで固定して入れなくすると、タヌキやイノシシはその鼻先をネットの上部に向けます。そこにあるのが通電線というわけです。また、アライグマやハクビシンは、もともと上に登る性質が強い獣です。障壁の前で立ち止まり、探索をした挙句、上から乗り越えようとするところに通電線がありこれまた感電する、そういう仕組みです。
図1 楽落くんの模式図
使用上の注意点
この楽落くんの効果を100%引き出すために、いくつかの注意が必要です。
先にも書きましたが、タヌキやイノシシはネットの下を潜ろうとしますので、裾は隙間ができないようにしっかりと固定します。
図に通電線とネット資材の間隔を5センチメートルとしていますが、これ以上、間隔が広いと、アライグマやハクビシンは容易に間をとおり抜けてしまいます。鼻先以外は感電しにくいため、通電線が体に触れてもショックを与えることはできません。
また雑草や作物のつるが通電線に触れると漏電し、感電させる力が弱くなりますので、見回りが必要です。このような状態が放置され、タヌキが通電線を噛みきってしまったという被害も出ています。
さらには、設置したその日から通電しないと柵に慣れてしまい効果がなくなります。何事も最初が肝心、確実に感電させ、この畑に近づいてはいけないと学習させることが大切です。当然、昼夜を問わず、一日中通電してください。
最後に、収穫が終了し、通電の必要がなくなったら、撤去しましょう。電気が流れていない電気柵を放置してしまうと、次作では、まったく警戒しなくなり探索行動もせず、感電する機会が減ってしまいます。
【注釈】
掲載している農薬の使い方(農薬使用基準)は、農林水産省が公開している記事掲載時点での農薬登録情報等と基に作成しました。
農薬使用の際は、下記に注意してください。
- 登録内容に変更がないか、必ず最新情報を確認する。
- 使用の際は、ラベルの注意事項を必ず確認し、適切に使用する。
- 農薬使用基準は、農薬取締法に基づき、作物ごとに該当する農薬の使用方法、使用時期、回数などについて使用者が守るべき基準です。
また、同一成分を含有する農薬を併用する場合は、成分の総使用回数に従う。