今年のイチゴここに着目!
今年のイチゴここに着目!
1 イチゴの根
イチゴの根は品種によって、大きく異なります(写真1)。当管内の主力品種であるとちおとめは、ふんわりとしたボリューム感のある根となっています。しかし他の品種に比べると、一次根の数は決して多くなく、紅ほっぺとの比較では半分以下となっています(表1)。
表1 イチゴの1次根の品種間差
写真1 イチゴの根の品種間差
とちおとめの根の特徴は、一次根が少ないかわりに、養水分を吸収する二次根の量が非常に多いことにあり、この二次根の障害の発生が生育や収量に大きく影響します。
二次根の障害の要因は、ネグサレセンチュウの寄生や萎黄病の感染、あるいは高い肥料濃度など様々です。
一方、ポット育苗のように根域制限された条件でのかん水過多は、肥料の流亡を招き、芽なし株が多く発生しがちです。特にこの傾向は、近年普及してきた紙ポット育苗で多く見られます。
また定植時の株間が狭いと十分な根圏が確保できないため、生育後半の収量や糖度が低下しやすくなります。
定植後の土壌水分不足は、一次根の発生を少なくし、結果として、二次根も少なくなり、地上部に対して地下部の生育量が劣り、チップバーンが発生しやすくなります。
逆に二次根の量が多いため吸肥力が強く、体内の栄養状態は高くなりやすいので、うどんこ病の多発を招きやすいのもとちおとめの特徴です。したがってとちおとめは水稲のコシヒカリと同様、多肥栽培は厳禁です。
2 チップバーンの発生要因
前項でも少し触れましたが、とちおとめはチップバーンが出やすい品種です。これは地上部と地下部の生育がアンバランスになり、葉からの蒸散量に対し、根からの水分供給が追いつかなくなって発生します。そのため水とともに移動する石灰の欠乏が生じます。
育苗期の場合、親株から最も遠くにあるランナーの先端にでやすいのもこのためです。
定植後は、大型ハウスのように初期から温度が確保され、地上部の生育が旺盛(小葉の葉長が10cm以上)となる場合、必ずといって良いほど発生します。このような時は、摘葉により蒸散を抑制する必要があります。
小葉が小さいにもかかわらず発生した場合は、根になんらかの障害がある可能性があります。その時は、株を地下部から丁寧に抜き取り、根を観察してください。褐変が著しい場合は根に障害があるので早めに抜き取りましょう。
3 ハダニとセンチュウ
春先、イチゴの新葉は勢い良く直線的に上に向かって伸びていきます。少々ハダニがいても生育の方が勝るため、収量に影響することはありません。
しかし時として、ハダニが大発生し「くもの巣」を張ったようになり、生育が抑制されてしまうことがあります。
このようなほ場のイチゴには大抵、ネグサレセンチュウが多数寄生しています。根に障害があるために新葉が勢いよく伸びられず、ハダニに負けてしまったのです。したがって前作で、ハダニが多発したほ場では、ハダニ対策の前に土壌管理の改善を図る必要があります。
ネグサレセンチュウは地下水とともに土壌中を上下に移動していますので、薬剤処理だけでは十分な効果が得られないこともあります。ギニアグラスやクロタラリアのような対抗植物を導入し、土中深くまでセンチュウ対策を講じることも必要です。
写真2 ハダニ多発株と健全株の比較
写真3 根から分離したネグサレセンチュウ
4 花芽分化の条件
イチゴの花芽が分化するには、15℃以下の低温、短日、窒素飢餓のうち、いずれか一つ以上の条件が必要です。
気温が高く、日長も長い9月の彼岸前に花芽を分化させるには、育苗後半に窒素を切るか、強制的に遮光したり、予冷庫等を使用して低温条件を与える必要があります。
当管内で多く取り組まれているポット育苗では9月10日~15日、無仮植育苗で9月25日頃が花芽の分化時期となります。
定植はこの花芽分化を確認してから行ってください。分化前に定植すると、頂花房の花芽分化が遅れるだけでなく、腋花房の出蕾も遅れ、全体として収量が少なくなります。また保温開始は花芽分化の約30日後が望ましく、それより早いと頂花房の生育が先行し、着果負担による株疲れや腋花房の出遅れ、生産性の低下を招きます。
5 獣害対策
今年は2月14日の大雪で沢山のハウスが倒壊しました。手が入らなくなったハウスには、アライグマやハクビシン、タヌキなどが侵入し、イチゴを食べあさっていました。彼らは美味しいえさ場を記憶して、またハウスへと戻ってくること必定です。
せっかくハウスを復旧しても、育てたイチゴを横取りされてはもともこもありません。
昨年の2月号でも紹介しましたが、アライグマなどの中型動物には、40cmくらいの高さの電気柵を設置することで効果があることがわかっています。
収穫期には、是非とも獣害対策も行ってください。
図1 埼玉県が開発した電気柵「楽落くん」の模式図
【注釈】
掲載している農薬の使い方(農薬使用基準)は、農林水産省が公開している記事掲載時点での農薬登録情報等と基に作成しました。
農薬使用の際は、下記に注意してください。
- 登録内容に変更がないか、必ず最新情報を確認する。
- 使用の際は、ラベルの注意事項を必ず確認し、適切に使用する。
- 農薬使用基準は、農薬取締法に基づき、作物ごとに該当する農薬の使用方法、使用時期、回数などについて使用者が守るべき基準です。
また、同一成分を含有する農薬を併用する場合は、成分の総使用回数に従う。