今年の米づくりのポイント ~暑さに負けない米づくり~
今年の米づくりのポイント ~暑さに負けない米づくり~
平成22年産水稲は出穂期以降の高温により、3等や規格外に格付けされる米が多く見られ、農家経済にも大きな打撃となりました。
高温対策は「これだけやれば大丈夫」という特殊な技術はありません。効果的な基本技術の積み重ねによって、少しずつ品質が向上します。そこで、基本に立ち返り、基本技術をより多く実践し、高温条件でも上位等級に格付けされるようにしましょう。
1 昨年の米づくり
(1)気象条件
昨年は8月中旬から9月上旬まで高温が続き、降水量も少なく経過しました。特に、平年であれば平均気温が27℃を下まわるお盆すぎになっても高温状態が継続しました。この高温期間が登熟中に高温障害を受けやすい時期と重なり、白未熟粒の発生が増加しました。【図-1】
【図-1】平成22年の気象と5月20日植彩のかがやきの生育
(2)検査結果
埼玉県全体では、早生品種は上位等級が多いものの、晩生品種は等級が低く、特に平年ではほとんど発生しない規格外が多く発生しました。【表-1】
【表-1】品種別農産物検査結果(埼玉県)(%)
比企郡では、田植え時期や気象条件の関係で規格外の発生は比較的少なくすみましたが、全体的には同様の傾向となりました。【表-2】
【表-2】地域別農産物検査結果(JA埼玉中央)(%)
(3)下位等級格付けの理由
農産物検査で3等や規格外に格付けされた主な理由は白未熟粒の発生による整粒不足です。白未熟粒は乳白粒が一般的ですが、白く見える部分によって乳白粒、腹白粒、背白粒、基部未熟粒があり、影響を受ける時期や原因が異なります。
(4)登熟の仕組みと白未熟粒の発生要因【図-2】
光合成によって葉で作られた糖は、籾に運ばれデンプンとなって蓄積されます。
籾でデンプンとして蓄積される際には、詰め込まれる順番が決まっています。
登熟初~中期(出穂後4~20日頃)は出穂後5~6日で粒の縦(長さ)が決まり、その後中心部から外側に向かってデンプンが蓄積し、出穂後15~16日には幅が決まります。登熟の中~後期(出穂後16~24日頃)には玄米の基部から背部に蓄積し、粒の厚みを増して蓄積は終わります。
粒の中心部が白くなる乳白粒は登熟初~中期に籾に送り込まれる糖が不足した場合に発生しやすくなります。
玄米の背部が白くなる背白粒や、基部が白くなる基部未熟粒は、登熟の中~後期に高温等でスムーズな転流が妨げられると発生しやすくなります。
【図-2】白未熟粒の外観と断面
(森田,2005)
下段はそれぞれ上段の点線部分の切断面(横断面)
左:乳泊粒, 中:背白粒, 右:基部未熟粒
2 今年の米づくりのポイント
(1)種籾の休眠対策
種籾は高温条件で登熟すると休眠が深くなり、発芽しにくくなります。温湯消毒を実施したり、浸種日数を従来より1~2日長くして十分に吸水させてから、鳩胸状態になるまでしっかり催芽させましょう。
(2)危険分散
早・中・晩と出穂期の異なる品種を作付けたり、同一品種でも播種時期を1週間以上ずらすなどして高温障害の危険を分散させ、刈取適期に収穫しましょう。
(3)根の活力(登熟力)維持
高温乾燥などのストレスに強いイネの体づくりには、深耕で根圏を広げて根量を増やしましょう。併せて、堆きゅう肥やケイ酸資材等を施用したり、生育に応じた増肥を行い、登熟後期まで養分を転流させるようにしましょう。
3 技術対策
(1)田植え前にできること
ア 種子の休眠対策(前述)
イ 作付計画の策定
- 品種選定と播種時期(前述)
- 風抜けが悪く、熱のこもりやすいほ場は避ける。
ウ 土づくり・施肥
- 完熟堆肥を1t/10a以上施用
- プラウ等で15cm以上の深耕
- ロータリーでは、尾輪を上げてゆっくりと走行し、あと2cm深く起こす。
- ケイ酸資材を施用する。(例:ケイカルやフミンPS23号を100kg/10a)
- 緩効性肥料でジワジワと肥料を効かせ、それでも葉色が薄くなったら追肥をする。
(2)田植え後にできること
- 高温多照で生育が進んでいる場合には、葉色版等を参考に穂肥を積極的に施用する。
- ケイ酸質資材を田植え前に施用していない場合は、ケイ酸の吸収量が増える最高分げつ期~幼穂形成期にケイカルを40~60kg/10a散布する。
- 用水が豊富に確保できるほ場では、かけ流しを行い地温を下げる。
- 出穂1週間後以降の湛水管理は根の活力が低下するので、間断かん水を行う。
- 落水は出穂後30日以降に行い、高温が続くときは時々かん水し、根を健全に保つ。
4 人間も暑さ対策を
暑い時期の農作業は、熱中症で亡くなられる方も多いので、十分注意して下さい。
農家の熱中症対策
- 水分と塩分を意識してこまめに補給する。
- 食事はしっかり取り、お酒の飲み過ぎに注意する。
- 作業は涼しい時間に効率よく行う。
- 通気性が良い長袖、帽子等で、直射日光を避ける。
- 家族に作業場所と帰宅予定時刻を伝えておく。
- 少しでもおかしいと思ったら、我慢せずにすぐ医療機関へ。
- 労災保険へ加入する。
※農家の労災保険加入は、JAの各営農経済センターで申し込めます。
【注釈】
掲載している農薬の使い方(農薬使用基準)は、農林水産省が公開している記事掲載時点での農薬登録情報等と基に作成しました。
農薬使用の際は、下記に注意してください。
- 登録内容に変更がないか、必ず最新情報を確認する。
- 使用の際は、ラベルの注意事項を必ず確認し、適切に使用する。
- 農薬使用基準は、農薬取締法に基づき、作物ごとに該当する農薬の使用方法、使用時期、回数などについて使用者が守るべき基準です。
また、同一成分を含有する農薬を併用する場合は、成分の総使用回数に従う。